フィリピンの電気事業は地味に複雑な様相を呈しています。フィリピン株に投資するにしても電力関係は株式投資の中でも手堅い投資先ですから一度は視野に入れることもあるでしょう。ということで、一度きちんとフィリピンの電力事情を整理しておきたいと思います。
まず基本的なことですが電力事業は以下の3つに分けることができます。細かく定義を語ると大変なことになりますから、ざっと簡単な説明を添える程度にしておきます。
まずフィリピンの発電事業を語るに触れずにおけないものにフィリピン電力公社 (National Power Corporation)があります。エネルギー省に属する国営企業なのですが、電力の小売価格自由化によって電力価格の高騰抑制に主眼を置いた電力産業改革法 (Republic Act No. 9136) により発電資産を民間発電事業者に売却を進めています。これによりフィリピンの発電事情は多くの私企業によって賄われている状況になっています。
ややこしいことに送電事業は私企業である National Grid Corporation of the Philippines (NGCP) が担っており、このNGCPがフィリピン国営送電公社(TransCo)を運営する権利を有しています。しかし中国にライフラインを握られているということで、しばしば問題として取り沙汰されることがあります。というのも中国の国家電網はNGCPの40%の株式を取得していますから、間接的に国営送電公社の運営を握っていると言えます。つまり中国がフィリピンの送電を停止できる可能性を有している、という点で問題があるわけです。このあたりの関係をどのように解消するのかがフィリピンの今後の課題となることは間違いはないでしょう。
ここから消費者と直接的に接するので見慣れた企業の名前も多く出てきます。まずフィリピン国内の配電事業を行っている私企業はフィリピンのエネルギー省が公表しているだけで152社あります。王手はルソン島を担うマニラ電力会社 (Meralco)、セブ等のビサヤ地方を担っているのが主にビサヤン電力会社 (Veco)、ミンダナオは主にDavao Light and Power社 (DLPC)が担っています。なおMeralco (メラルコ)はフィリピンの国内電力販売量の約50%を占めています。
フィリピン市場に上場している電力事業を行っている企業は以下の10社(2021年8月)となります。ただ電力事業だけを行っているわけではなく、不動産投資や電力以外のエネルギー事業に従事している点は注意が必要です。たとえばBasic Energy Corporationは名前から電力専門な雰囲気がしますが、IBasic, incのようなIT事業を行っていたり、Southwest Resources, Inc.のような石油事業にも手を伸ばしています。PertoEnergy Resources Corporationなんか石油事業だけな雰囲気を醸し出しつつ、再生可能エネルギーとして風力発電などの事業も行っています。
メラルコは国内電力販売量の約50%を占めていて、マニラのあるルソン島の発電及び配電を担っていることを鑑みれば確かに投資先としては食指が伸びやすいと思います。メラルコはフィリピン株式市場に直接上場していますから、投資するのも入りやすいのは間違いがありません。
しかし地味に注目したいのがAboitiz Power Corporationです。先にビサヤ地方とミンダナオに於ける配電事業はVecoとDLPCが主に担っていると述べました。そのことを頭の片隅に置いておきながらAboitiz Power Corporationのコングロマリットマップに目を移してみましょう。以下の画像は一部の抜粋となります。
Aboitiz PowerはDLPCの99.93%の株式、Vecoの55.26%の株式を保有しています。つまり実質的にビサヤ地方とミンダナオの配電はAboitiz Powerが担っていると言えるわけです。このように見るとフィリピンの電力事業に投資したい=メラルコという構図だけではなく、Aboitiz Powerも視野に入ってくるのではないでしょうか?
配電事業を除けばフィリピンの電力事業は自由化の真っ只中であり、まだまだ事業再編など模索の段階にあります。しかしフィリピン事情として財閥系が強い傾向がありますから、将来を見据えて財閥系の電力事業の株に投資しておくのは一つの戦略であるように思います。