先日のこと、ドゥテルテ大統領は次期大統領選の副大統領には立候補せず政界を引退すると述べました。多くのニュースが伝えていますが、一応ソースとしてNew York Timesの記事のリンクを貼っておきます。
フィリピン人の友人にドゥテルテ大統領の評価を尋ねれば、それこそきれいに賛否両論に分かれ「どうでもいい」という態度を示されることはありませんでした。治安の向上や汚職の払拭に関しては折り紙付きで素晴らしいと評価しつつも、その表現方法を咎める意見が多かったように思います。また政策そのものを評価しないという意見や、ミンダナオ出身の初の大統領ということで、ミンダナオやビサヤ地域では支持する声があってもルソン島などタガログ語圏は殊に嫌う傾向が強かったようにも思います。そんなことで大統領、もとい政治家を評価するなとは思いますが、この溝はなかなか埋まらないとは思います。残念なことだとは思いますが。個人的には何度も言いますが、日米中を手玉に取り、三か国との上手い距離感を保ちつつ経済支援を得る手腕は素晴らしいと思います。これが出来るバランス感覚は相当なものだと思います。
さて、ドゥテルテ大統領と言えば脅しによる政治、たとえばPLDTやGlobeの移動通信市場の寡占状態を罵り、携帯料金を下げなければ通信塔に吊るすというような感じで国内政策を引っ張ってきました。それが功を奏した面は意外に大きいため次期大統領の手腕は厳しく問われるところとなるでしょう。ドゥテルテ大統領の恐怖政治はダバオの実績に裏付けられていたのが大きいわけで、次期大統領が同じような恐怖政治を行っても上手くいくとは考え難いわけです。その状況で如何にして汚職や麻薬などを撲滅できるのか、かなり難しい舵取りとなると思います。一方で政界引退後には逮捕権が適応されるわけで、ドゥテルテ大統領の動向には目が離せません。
で、そんな恐怖政治の犠牲者と言っていいのか分かりませんが、有名なところにABS-CBNという民間放送局があります。フィリピン株式市場に上場している民間2大テレビ局の1つなわけですが、2020年に放送免許更新ができず放送停止となっています。その原因はドゥテルテ大統領の報復だという噂もあります。実際に2016年の選挙ではドゥテルテ大統領に関する放送を控え、また麻薬撲滅を批判的に報道してきました。ただ噂の範疇を出ませんから何とも言えませんが、ドゥテルテ大統領の政界引退を機にABS-CBNの放送免許が再び認可されるのかは注目したいところです。
なお外国人としてABS-CBNの株式を購入することはできません。改めて述べる必要はないかもしれませんが、株式とは平たく言えば会社の所有権です。フィリピンでは外国人のメディア企業の所有が許されていませんから、外国人はABS-CBNの株式は購入できない、というわけです。ただ外国人でもABS-CBNの株式を購入することは出来ないわけではなく、ABSP、いわゆるABS-CBN Holdings Corporationという特別目的会社を通じてなら購入することはできます。そこまでして投資する意味があるのかは考える必要があるのかもしれませんが。
ちなみにABS-CBNの放送停止に関連して一つのドラマが終焉の危機に瀕しました。フィリピン人で知らない人はいないと言われるテレビドラマ”ang probinsyano”、意味は「田舎者」です。だからABS-CBNが放送停止となったときに、probinshyano(ダバオ出身の田舎者)によってテレビドラマのang probinshyanoが終わるという冗談がありました。
さてさて、フィリピンは来年の大統領選で大きな一つの節目を迎えることになるでしょう。そしてその節目はフィリピン株にも大きな影響を与えることになると思っています。しかしどのように転んでもフィリピンには日本より明るい兆しがあるように思うのは僕だけでしょうか。
ドゥテルテ大統領の政界引退宣言に際し、なんとなく雑感を綴ってみました。