何かと話題のCOP26、第26回気候変動枠組条約締約国会議ですが、フィリピンにとって朗報とも言える新たなパートナーシップが立ち上がりました。アジア開発銀行、いわゆるAsian Development Bank (ADB)のプレスリリースによると、COP26においてインドネシアとフィリピンにおけるエネルギーの移行メカニズム(Energy Transition Mechanism, ETM)の構築に向けた新しいパートナーシップの立ち上げが発表されました。特にETM東南アジアパートナーシップはアジア太平洋地域では初の試みで、東南アジアのクリーンエネルギーへの移行を加速させることを目的としています。もう少し細かく言えば、既存の石炭火力発電所を前倒しで廃止し、クリーンな発電能力に置き換えることです。つまり太陽光発電や風力など再生可能エネルギーへの置き換えを目指しているということですね。
注目したいのは日本の財務省国際事務次官の発言で、財務省がETMに2500万ドルの助成を行うという、日本人にとってはもっと他にやることあるんじゃない?と突っ込まれそうなことを発表しています。これはフィリピン株に投資している身としては御の字なわけです。さらにアジア開発銀行の総裁は「インドネシアとフィリピンは、この地域のエネルギーミックスから石炭を取り除き、世界の温室効果ガス排出量の削減に大きく貢献し、経済を低炭素成長路線に移行させるプロセスの先駆者となる可能性を秘めている」と述べています。
アジアのエネルギー需要は2030年までに倍増すると言われており、東南アジアは石炭火力発電の新設を続けている地域の一つです。インドネシアでは電力の約67%、フィリピンでは約57%が石炭による発電というのが実情です。フィリピン政府は石炭火力発電所の新設を一時停止する計画を発表しました。
ただ個人的に思うのが、AC Energyなど再生可能エネルギーに力を注いでいる企業も石炭などの火力発電所に頼らなければならないという現実です。それについては下の記事でも触れています。
改めて言えば、太陽光発電が100%稼働することは理論上ありえません。というのもフィリピンは台風の産地ですし、そうでなくてもスコールなども降りますし、当然くもりの日だってあるわけです。すると太陽光発電だけでは電力を補えませんから、別の発電によって不足を補わなくてはなりません。それが現状では石炭などの火力発電というわけです。
もし火力発電をなくして完全に太陽光発電などに移行してしまえば、当然のように電力不足が発生します。だからこそバッテリーが重要な位置を占めてくるわけですね。発電できるときに発電しておいて、それを貯めておけば発電効率の悪い日でもなんとか凌ぐことができる、という算段です。
ただ問題はCOP26では単に二酸化炭素の排出量の削減のために石炭による火力発電所の廃止と再生可能エネルギーの普及だけが語られて、そういう天候不順による電力不足の懸念など議論が煮詰められていない感が否めません。
投資家としてはアジア開発銀行、しかも日本の財務省が後押ししてくれるんですから、まさに「国策に売りなし」と言った感じで喜ばしいとは思っています。でも環境問題と考えた時には、晴天と雨天の日数からどれだけの発電効率を望め、その上で火力発電など完全廃止にすべきなのか、そういう議論がされて欲しいなとは思いました。
なおADBは目標を達成するために各国政府が実現可能な政策やビジネス環境を確立することを支援し、2年から3年のうちにETMはインドネシアとフィリピンに於いて5〜7基の石炭発電所の閉鎖を促進するために必要な資金を調達するとともに、これらの国におけるクリーン・エネルギーの選択肢への投資を促進するとしています。
ETMがインドネシア、フィリピン、そして仮にベトナムで本格的に導入された場合、今後10年から15年の間に石炭火力発電の50%(約30ギガワット)が廃止され、年間2億トンの二酸化炭素排出量が削減されることを目論んでいるそうです。