このところフィリピン株が冴えません。ウクライナ侵攻は予想していたことで、それに備えていたつもりですが、売買をして実現していない損益とはいえ、資産が減るのは見ていて気持ちのいいものではありませんね。原油高の影響はまだまだ続きそうですから厳しい見方もできますが、自由に渡航できるようになったというのは単純にポジティブに取れるので見極めが難しいところです。そんなところへドゥテルテ大統領が通信、航空、鉄道などの一部産業分野において完全に外資企業が所有できることを認める法律にサインしたというニュースがありました。
まだ水道などの分野は外資による完全所有が認められていません。今回の規制緩和についてドゥテルテ大統領はCovid-19からの経済回復のためと銘打っています。今回の通信産業に完全外資所有の企業が参入できるというのは、僕はドゥテルテ大統領が昔からPLDTやGlobeなどを敵視しているところから来ているような気がしないでもありません。ただドゥテルテ大統領の後ろ盾もあって鳴り物入りで業界に入ったDITOにしたら梯子を外された形でもあるんじゃないかなとは思います。
今回の新しい規制緩和に関する法律によってPLDTやGlobeの寡占状態がどのように左右されるのか見ものではあります。ただコングロマリットの強いフィリピンでどこまで外国企業が好き勝手に出来るのか、という懸念もありますが。
ただネガティブリストのA、つまり外国人による投資・所有が、憲法および特別法により禁止・規制されている分野の筆頭とも言えるインターネット事業(通信)が一気にネガティブリストから外されるというのは外国人からしたらチャンスの到来とも言えるわけですね。
これに関連して実はフィリピンで個人事業主の事業範囲も広がります。と、それに触れる前にいろいろと御託を並べたいと思います。
フィリピンで会社設立を考えたことがある人は地味に多いと思うのですが面倒な印象を受けたと思います。特に資本金に関してフィリピン国内向けの企業は最低でも20万ドル、つまり日本円にして約2千万円以上が必要になります。これを輸出企業にすると5,000ペソまで下がりますが、例えばフィリピンで「日本食レストランをするぞー!」と意気込んで経営する場合、資本金が約2千万円必要になります。飲食業は外資規制を受けるネガティブリストには入っていないので完全に外資で運営が可能ですが国内向け事業なので資本金は20万ドル必要になります。なお株式の60%がフィリピン資本であれば20万ドル以下の資本金でも設立はできます。
会社設立に関連して言えば、先端技術を使用しているかとか50人以上の直接雇用があるかないかとかで条件が変わるので、まずは自分の設立したい会社の形態を整理することが重要です。
こんな面倒な手続きをするくらいなら…「閃いた!!だったら個人事業主でいいんじゃない?」と考えるのが人の性というものですね。きっとGoogleで「フィリピン 個人事業主」と検索した人は少なくないんじゃないでしょうか。
まず大事なことですがフィリピンで外国人による個人事業主の登録は可能です。フィリピン人でなければ個人事業主になれないということはありません。フィリピンの個人事業主はDepartment of Trade and Industry(DTI, 貿易産業省)の管轄となります。DTIのビジネス登録ページ(BUSINESS REGISTRATION AND PERMITS)には以下のように説明がなされています。少し長いですが勘弁してください。
Department of Trade and Industry
It is necessary to register your single proprietorship business with the DTI to provide it with a legal identity and gain the rights to use your business name. Remember that a business name (BN) registration is not a license to operate a business.
Registering a business name and paying the fee can be done online at bnrs.dti.gov.ph. You may find a step-by-step registration guide at bnrs.dti.gov.ph/resources/registration-guide.
You may also register at your nearest DTI Regional or Provincial office. Bring an accomplished business name registration sole proprietorship application form and a valid government-issued ID. An authorized representative can also submit the BN application requirements as long as he/she also provides a valid ID and an authorization letter signed by the business owner.
Additional Requirements:
If Non-Philippine NationalClear certified copy of the Alien Certificate of Registration; and
https://www.dti.gov.ph/negosyo/business-registration-and-permits/
Certificate of Registration for Sole Proprietorship/Certificate of Authority to engage in business in the Philippines
さらっと意訳しておくと次のようなことが書かれています。
本文と翻訳とが見づらくなるので翻訳部分は背景を水色にしました。
個人事業主はDTIに登録することで法人格(a legal identity)を取得し、商号(the rights to use your business name)を得ることができます。ただし商号は商売を営む資格ではないことに注意してください。
商号登録と料金の支払いはbnrs.dti.gov.phでオンラインで行うことができます。
bnrs.dti.gov.ph/resources/registration-guide には、ステップバイステップの登録ガイドが掲載されています。
最寄りのDTI地域事務所または州事務所で登録することもできます。その際は、商号登録済みの個人事業主登録申請書(an accomplished business name registration sole proprietorship application form)と政府発行の有効な身分証明書を持参してください。代理人も有効な身分証明書と事業主が署名した委任状があれば提出することができます。
追加要件
非フィリピン国籍の場合
外国人登録証謄本及び個人事業主登録証明書/フィリピンで事業を行うための権限証明書
ということで、DTIでは既に非フィリピン国籍について言及しているので、フィリピンでは外国人が個人事業主として登録できないということはありません。ただし外国人登録証が必要なので、フィリピンのリタイヤメントビザとか適当に取得して要件を満たす必要があります。
問題は会社設立のネガティブリストや輸出型と国内型の資本金規制が個人事業主でも同じく適用されることです。したがって「フィリピンで個人事業主でサリサリストアを経営するぞー!」と意気込んでもサリサリストアが国内型であれば20万ドルの資本金が必要になります。個人事業主なので60%のフィリピン資本に頼るわけにもいきません。これを避けるのはフィリピン人名義にして外国人が最前線で働くというものですが、まず当然のことながら相当な信頼関係がなければ乗っ取られて終わりです。仮にフィリピン人名義で登録して、そのフィリピン人が働かないのは所謂「名義貸し」となり限りなくアウト依りのグレーラインと言った感じになるので注意が必要です。
どうしても個人事業主でサリサリストアを運営したい場合に考えられる形態はオンライン・サリサリストアという形態にして主に外国向けに輸出するとすれば外国向け企業扱いとなり、サリサリストアを個人事業主で営む場合でも資本金は5,000ペソでいける可能性はあるでしょう。
話をニュースに戻すと、今回の規制緩和の妙味は「約2000万円あれば個人事業主でインターネット事業を始められるようになった」という点です。個人事業主は会社と同じ規制を受けますから、今回の規制緩和がなければ個人事業主としてフィリピン国内でインターネット事業を始めることは出来ませんでした。それが今回は個人事業主でも参入が可能になったというわけです。ただフィリピン国内向けであれば当然約2000万円の資本金が必要になります。そもそも2000万円の資本金が出せるなら個人事業主ではなくて会社を設立すればいい(インターネット事業は先端技術と見なされるので資本金は少し安くなる)という話ではありますが。しかし個人事業主としてフィリピン国内にサーバーを置いて外国向けにレンタルするというのがインターネット事業に参入という見方が可能であれば、ちょっと話は変わってくるかと思います。ただフィリピン国内のインターネット環境は良くありませんから、そのあたりが改善されないと参入するメリットは少ないようにも思えますが。
そんなこんなでフィリピンの規制緩和のニュースから適当に筆を走らせてみました。個人事業主に関しては裏をきちんと取ってあるので間違いはないかとは思いますが、会社設立や今回の規制緩和に関しては鵜呑みにせず、きちんとリサーチしてください。