フィリピンに住んだり、あるいはフィリピンで働いたことがある、またはフィリピンで銀行口座を開設したことがある人ならご存知かもしれませんが、フィリピンでは日本のように預金口座を持つことはメジャーなことではありません。
友人は英語講師をしていますが、彼女自身の普通預金口座を持っておらず、銀行口座といえば会社から給料の支払いのための口座だけしか持っていません。このような口座は通称ATM Accountと呼ばれるもので個人的に預け入れをすることはできません。
フィリピンで最もメジャーな電子決済サービスはGlobe Telecom (GLO)の提供するGCashだと思います。銀行口座の開設が不要で、送金したり送金を受けたりできます。個人的には利息の付かない銀行口座のようなものだという認識でいます。電子マネーって利便性の代わりに顧客は利息を受け取らない、企業にとって旨い金融サービスなんじゃないかな〜なんて思っています。
ちなみに日本でもGCashの送金サービスがありましたが現在はサービスが停止となっています。
銀行口座を持つことがメジャーではないフィリピンで送金をするためにはどうするのかというと、GCash以外ではPalawan Pawnshop(パラワン・ポーンショップ)などを使います。赤と黄色と緑の派手派手しい看板の店舗はフィリピンでは嫌でも目につきますね。ちなみにPawnshop、つまり質屋が有名だというのがフィリピンの現状を物語っている気はしますが…。
それとフィリピンではお金を借りるローンアプリがメジャーだったりします。少額であれば無担保で借りられ、Palawan Shopなどで受け取ります。
フィリピンの金融サービスの特徴は、上述のように銀行口座を持たない一方でGCashやPalawan Shopのような送金が頻繁に行われている点にあると言えるでしょう。したがって、銀行口座を持たない人たちにどのようにアプローチするのかがデジタル金融サービスの課題となります。
フィリピン中央銀行の2019年の調査によると、フィリピン国内において銀行口座を持ってローンを組んでいるのは3人に1人に過ぎません。またローンを抱えている人のうち銀行から借りたことがある人はわずか3%です。さらに保険に加入しない人は77%、投資をしていない人は75%を超えています。
また中央銀行は2023年までに小売店の支払い総額の50%をデジタル化し、保険などの金融サービスに加入している人を70%に拡大することを目指しています。
フィリピンの大手デジタル企業のVoyager Innovationsは、PayMayaと設立するデジタルバンクを通じて全てのフィリピン人にデジタル金融サービスを提供する目標を達成するために日本円にして約184億8,800万円の新しい資金調達を行いました。この資金は既存の株主であるPLDT、世界的な投資会社であるKKR、中国の大手テクノロジー企業のTencent(テンセント)などが提供しています。
もしVoyager Innovationsのデジタルバンクライセンスが承認されれば、銀行口座を持たない多くのフィリピン人に融資や保険などの金融サービスを提供できるようになります。それはフィリピン中央銀行の調査そのままが巨大な市場となることを意味していますから、今後の大きな成長を望むことができます。
PLDTはVoyager Innovationsの株主であり、また今回ディスクロージャーでVoyager Innovationsにデジタル金融サービスの資金提供をしたと述べています。これまでスマホなどを使った金融サービスの有名どころはGCashだったわけで、ここにPLDT傘下のSmartが風穴を開けるのではないかと思います。というのもSmartやSunなどのeLoadはクレジットカードやPaypalが使えるにも関わらず、フィリピンで広く受け入れられているGCashを受け付けていないからです。
フィリピンのインターネット事業の寡占状態を解消するために鳴り物入りでフィリピンに登場したDITOですが、DITOの事業内容を見ても分かるようにインターネット事業以外に目立ったものがありません。インターネット料金やスマホ代を下げるにしてもPLDTとGlobeが値下げすればDITOを選ぶ理由は希薄になります。一方で既に知名度を得ているGCash、そしてSmartやTMなどを抱えるPLDTが株主であるVoyagerのデジタルバンキングライセンスが承認されれば、ますますDITOを選択する理由がなくなります。つまりPLDTとGlobeの二大巨頭にインターネット事業だけで勝負を挑むのは厳しいと思っています。なんなら家庭用インターネットでもConverge ICTを打ち負かすほどの力がDITOにあるとも思えません。
単なる個人的な妄想ですが、ドゥテルテ大統領の任期満了後にDITOはPLDTかGlobeに吸収されるんじゃないかとすら思っています。例えばSmartの傘下にはTNTとSunがあります。Sun (Digitel Mobile Philippines, Inc. (DMPI))は2011年10月にJG Summit holdingsから買収したものです。こういう前例があるわけですからDITOも同じ道を辿るかもしれません。ただ両社とも寡占状態を非難されているわけですから、そのスケープゴートとしてDITOを買収する必要はないのかもしれません。むしろ残しておく方が寡占状態にあるという非難を避けられ、一方でやっぱりPLDT、やっぱりGlobeという評価される意味でメリットがありそうですし。
DITOがGCashのようなサービスを開始するには遅すぎると思いますし、他に何か事業を模索しているかと言えば特にそのような話しもなく。僕的にはDITOは話題性があっただけで事業的には投資する魅力があまり感じていません。
フィリピンの金融サービスはデジタル事業と密接に関係しながら、そして急速に進歩していくでしょう。銀行口座を持たない形での金融サービスの発展は、ある意味で新しい世界の形とも言えるかもしれません。中央銀行の調査から見てもフィリピンの金融サービスはまさにブルーオーシャンと言えるでしょう。それに伴いPLDTとGlobe、そしてDITOがどのように関係しあって発展していくのか個人的に楽しみではあります。